高松高等裁判所 平成8年(ネ)283号 判決 1996年9月24日
控訴人(被告)
小西栄一
被控訴人(原告)
近藤宇一
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人は被控訴人に対し、金四七万五五六七円及びこれに対する平成五年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを一五分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴人の求めた裁判
一 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
第二事案の概要並びに証拠関係
本件事案の概要は、次のとおり付加、削除するほか、原判決事実及び理由の「第二 事案の概要」記載のとおりであり、証拠関係は原審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決四頁一行目の「右認定」から同三行目の「採用しない。」までを削除し、同五行目の「各1、2」の次に「、七」を加える。
第三当裁判所の判断
当裁判所の判断は、原判決一一頁二行目から同一二頁一行目までを、次のとおり改めるほか、原判決事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
「三 過失相殺について
民法七二二条二項にいう被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失も含まれると解すべきである(最高裁昭和五一年三月二五日第一小法廷判決・民集三〇巻二号一六〇頁参照)ところ、証拠(乙一の1、4、6、原審における被控訴人本人)によれば、被控訴人車両を運転していた近藤敦夫は、被控訴人の次男で、本件事故当時一九歳の未成年で、被控訴人と同居して、被控訴人とともに家業のゲームセンターを経営していたことが認められる。そうすると、近藤敦夫は、被控訴人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられる関係にあるので、近藤敦夫の過失は、被控訴人側の過失として、過失相殺の対象になるものと認められる。
そして、前記第二の一5認定の本件事故態様及び証拠(乙一の1ないし6、原審における被控訴人本人)によれば、本件事故現場は南北に通ずる道路と北東と南西に通ずる道路の交差点(以下「本件交差点」という。)であつて、その北側道路は制限最高時速四〇キロメートル、幅員七・五メートルの片側各一車線の道路、その北東側道路は制限最高時速五〇キロメートル、幅員九メートルの片側各一車線の道路であり、右交差点北側沿いにブロツク塀があることなどから両道路は互いに見通しが悪いこと、被控訴人車両は、北東側道路から進行してきて、赤色点滅信号に従い本件交差点手前で一時停止し、時速約一五キロメートルで本件交差点に直進してきたが、その際右前方の確認を怠つたため、衝突するまで控訴人車両の進行してくるのに気付かなかつたこと、控訴人車両は、北側道路から時速約六〇キロメートルで黄色点滅信号の本件交差点に直進してきて、衝突地点から一九メートル手前で被控訴人車両を発見し、急ブレーキをかけ、ハンドルを右に切つたが、間に合わず、自己車両左前部を被控訴人車両右前部に衝突させたこと、しかしながら、北側道路から見通した場合、衝突地点から三五・五メートル手前の地点で被控訴人車両を発見し得たこと、以上の事実が認められる。
そうすると、北側道路から進行してきた場合、北東側道路の見通しが悪かつたのであるから、控訴人としては、北東側道路から本件交差点に進入してくる車両を発見した場合は直ちに停止できるよう十分減速して、本件交差点に進入するとともに、左前方を十分注視すべき注意義務があつたところ、これを怠つて、制限最高時速より高速の時速約六〇キロメートルで本件交差点に直進するとともに、左前方不注視により、被控訴人車両の発見が遅れたという過失により、本件事故を発生させたといえる。
しかしながら、北東側道路から進行してきた場合も、同じく北側道路の見通しが悪かつたのであるから、近藤敦夫としては、右前方を十分注視して、北側道路から本件交差点に進入してくる車両を発見した場合は直ちに停止すべき注意義務があつたところ、これを怠つて、衝突まで控訴人車両に気付かなかつたというのであるから、この右前方不注視の過失も本件事故発生の原因となつているといえる。
以上によれば、近藤敦夫の右過失も本件事故発生の原因になつているのであるから、被控訴人の損害につき過失相殺すべきところ、近藤敦夫と被控訴人の各過失の態様その他右認定の諸事実、殊に、控訴人車両の対面信号が黄色点滅信号であつたのに対し、被控訴人車両のそれは赤色点滅信号であつたことを考慮すると、被控訴人の損害の七割を過失相殺するのが相当である。
そうすると、被控訴人の損害合計額は一四一万八五五六円であるから、過失相殺後の額は四二万五五六七円(円位未満四捨五入)となる。
四 弁護士費用〔認定額五万円〕
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、五万円と認めるのが相当である。
五 結論
よつて、被控訴人の本訴請求は、右損害額合計四七万五五六七円及びこれに対する不法行為の日である平成五年四月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。」
第四結論
よつて、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、右金額の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余は理由がないので棄却すべきところ、これと結論を一部異にする原判決は相当でないので、これを本判決主文一項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 大石貢二 馬渕勉 一志泰滋)